2009/8/16

スポーツとして扱ってよ

「あれじゃあスポーツ中継じゃなくてバラエティ番組だよ」 「でも新たなファンを開拓する必要があるんだから、それでいいんじゃないの」

７月中旬、全英オープンが行われていた時期、 ゴルフ仲間で飲んでいたときの友人同士の会話です。 開幕前からＴＶも新聞も石川遼クンの報道ばっかり。 スポーツ紙のみならず一般紙までも、 見出しは遼クン。私もやや食傷気味でした。

しかし一方で、タイガー・ウッズと同組だったこともあり、 ＴＶ中継の視聴率もかなり高かったようで、 関係者はホクホクだったことでしょう。 全英オープンに限らず国内のトーナメントの中継も、 遼クンが活躍していれば 今までゴルフに興味なかった人たちも見るようになり、 結果としてファンの開拓につながればゴルフ界にとってはプラスになる。 それは理解できます。

でもゴルフ中継はあくまでスポーツの中継だとすれば、 ちょっと違う方向に行っているような気がします。 全英オープンの場合、過去の実績としては今田竜二の方が 遼クンより遥かに格上なのに、そんな選手いたっけ？ といった扱いでした。

今アメリカで行われている全米プロ選手権でも報道の姿勢は同じ。 日本人選手の中では最も成績のいい藤田寛之よりも 遼クンの方が大きく扱われ続けています。

先々週、日本での試合で遼クンが優勝したとき、 ちょっとした問題が起こりました。 最終日、同じ組のブレンダン・ジョーンズと優勝争いを繰り広げたのですが、 ジョーンズが大事なパットを外した際、 ギャラリー（観客）の何人もが拍手したのです。 同じことが２ホール連続であり、 親日家のジョーンズも「そりゃないよ」といった顔つき。 絶対にあってはならない、最悪の観客マナーです。

優勝した遼クンは直後のインタビューで、 涙を流しながら「ジョーンズ選手と戦えたのを 誇りに思っています」と話していましたが、 あの涙は心ない観客への抗議のように感じました。

実際に遼クンは、全米プロ選手権に出発する前の成田空港で、 「ゴルフはブーイングのむかない紳士のスポーツ。 パットを外したことを喜ぶ応援のスタイルはゴルフにはない。 ギャラリーも真摯な気持ちで見てもらいたい」と意見したそうです （産経新聞WEB版より）。

そんな悪質なギャラリーを生んだのも、 異常なほどの特別扱いをしている報道側の姿勢に問題がある、 というのを当事者たちは気づかないようです。

今回の全米プロの２日目。遼クンがプレーを終了した時点の順位は９０位ぐらい。 上位７０位までに入らないと予選落ちとなるのですが、 まだ多くの選手がプレー中で、 難しいコースなのでスコアを落とす選手が続出する可能性がありました。 遼クンのファンとしては「上の選手よ、落ちてきてくれ」という 心境だったでしょうが、まさかＴＶのアナウンサーまでもが・・・

「まあ、ゴルフの世界では言ってはいけないことなのでしょうが、 上位選手が落ちてきてくれれば、石川遼の予選突破が十分に期待できます」

そりゃＴＶ局にしてみれば。 遼クンが予選突破するかどうかで視聴率が大きく 変わるだろうからそういう気持ちになるのは分かるけど、 それは言っちゃダメでしょう。 視聴者がそういう気持ちになるのは自由だけど、 アナウンサーがその姿勢でいいの？ 「他の選手がミスショットしたら、 皆で拍手しましょう」と言ってるのと同じじゃないの。

結局アナウンサーの願いが通じて、上位の選手たちがスコアを崩し、 遼クンは無事に予選を通過できました。

これで今後も、遼クンと争う選手がパットを外すと 拍手する観客が増えるんでしょうね。 アナウンサー自身が拍手するのかも知れないですね。 ゴルフ・ファンにとっては悲しい現状です。 遼クン自身が最大の被害者のように思えます。 やはりＴＶ局内では、スポーツ番組ではなくバラエティ番組の一種、 という位置づけなのでしょうか。

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