2017/8/6

世界征服できても研磨は

【このコラムは、毎月第１日曜・第３日曜の２回、更新します】

数年前に仕事上のお付き合いがあったＫ氏と、先日久々にお会いしました。

当時の思い出話などで盛り上がった後、Ｋ氏は「実はいま興味を持っているのはＡＩなんですよ」とのこと。

私も興味があり、１か月ほど前のこのコラムでも将棋ソフトの話を書いたばかり。ＡＩ談義でさらに盛り上がりました。

ただＫ氏は「ＡＩはもう人間を凌駕しています。近い将来、人間を破滅させて地球を乗っ取ってしまう可能性があります」という余りにも大胆な意見で、その点は簡単には同意できず、我々の会話はどんどん熱くなっていきました。

私の考えは、「ＡＩには『欲』が存在していないのではないか。人間を征服するには、この世界を牛耳ってやろうという欲が必要だが、ＡＩには欲望が持てるのだろうか。世界中のＡＩが連携する必要があるし、そうなると複数のＡＩが異なった野心を持ったり、相手の腹をさぐったり、協力するフリをして騙したり、というようなことが発生するのだろうか。欲望を持ったＡＩ軍が提携して人間を征服する、という図は想像できない」というものです。

矛盾はあるかもしれませんが、将棋ソフトにしても「ようし、ここで人間を倒して将棋界を征服してやろう」などといった欲望（邪念）をいっさい持たず、勝つための最善の手を打つことだけに純粋に専念するからこそ勝負に勝てるのだと思っています。

でもＫ氏の意見は、ＡＩは人間ができることは何でもできるので太刀打ちするのは難しいというもの。

いずれにしてもＡＩが将来どう発展するのかは想像の世界なので、なかなか議論は噛み合わず、でも愉快なひと時ではありました。

そろそろお開きにしましょうか、という流れになった頃、Ｋ氏が「実は私には、まだお話していない秘密の趣味というか特技があるんです」と告白を始めました。「えっ？ 何ですか、その趣味とは」と尋ねると・・・

「あのお・・・日本刀を研磨することです」へえーっ、それは珍しい。そんな趣味の人がいるんだ。

「もちろんアマチュアですが、国内のコンテストで賞を取ったこともあるし、なかなかの腕前なんですよ」

ただ単に鋭く磨けばいいというものではなく、砥石の使い方によって刃の光沢も変わってくるしかなり奥が深い分野だそうです。

そこで私が一言。「だったらＡＩを使ってロボットに研磨技術を教え込めば、人間より上手に磨けるようになるのではないんですか？」

それに対し、ＡＩ万能論者のＫ氏が間髪を入れず「いや、ダメです。人間より上手に研磨することは不可能です。理想の研ぎ方で理想の刀を作るのは人間でなくてはできません」

思わず呆気にとられてしまいました。

ご意見・ご質問のある方は、ぜひメールでお寄せください。必ず返信します。
toshiki.karasawa@nifty.com
私の会社のアドレス宛でも構いません。なおお送りいただいたコメントは本ページで（お名前は出さずに）紹介させていただくこともありますのでご了承ください。